もし誰かに生まれ変わることができたら、わたしは作家の川上未映子さんになりたいです。そんなわたしの憧れる川上未映子さんの描き下ろした新作『春のこわいもの』が、7月にAmazonの運営しているオーディオブックアプリ『Audible』で先行配信されました。
本になる前にオーディオファーストなんてちょっと前だったら想像もできなかったことですが、特別感がありますよね。
今回は『春のこわいもの』の中で、わたしが一番心に突き刺さった『あなたの鼻がもう少し高ければ』という作品についてお話したいと思います。
この記事はこんな人におすすめ ・川上未映子さんのファンの人 ・『春のこわいもの』が気になる人 ・世の中の”美”に対する流れに疑問を持っている人
Contents
『春のこわいもの』ってどんな作品?
『春のこわいもの』は、“感染症”大流行直前の日常を舞台に描かれる6篇の物語。現代を生きる人々が直面するテーマをリアルに表現したストーリーが展開されています。
川上未映子さんの作品は、これまでもどれも事実をただ淡々と美しく表現されていますが、『春のこわいもの』も同じ。
コロナ禍になってから様々な意見を述べる人が増えてきたのは風の時代とやらの時代の流れなのかも知れませんが、多数決が強い風潮や、かっこいいことが好まれる傾向は、相変わらず変わらないなとわたしは感じています。そんな風潮や傾向を、良いとも悪いとも言わずにキレイに表現できる川上未映子さんはやはり天才です。
作品の魅力を最大限に引き出すため、朗読を担当したのは、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する俳優・岸井ゆきのさん。
たくさんの女性が主人公の気持ちに共感するはず!『あなたの鼻がもう少し高ければ』

あらすじ
主人公は大学生のトヨ。トヨは、決して顔に自信がないわけではなく気に入った部位はあるものの、インスタグラムで知った港区女子のモエシャンに憧れを抱くようになります。モエシャンの取り巻きとして仲間にはいるべく、モエシャンが主催するギャラ飲み(パパ活)のオーディションを受けることになったトヨは痛烈な洗礼を受けることとなります・・・
『あなたの鼻がもう少し高ければ』の魅力
『花より男子』というドラマの中で、整形手術をした女子生徒を標的にしたいじめを主人公の牧野つくしが、「美しさをお金で買って何が悪いのよ!」と一蹴したシーンがありました。
「美しくなりたい」「かわいいって言われたい」女子であれば一度や二度そんなふうに思ったことはあるはず。
「見た目じゃない。人は中身だ」と言っても、結局見た目は気になります。
わたしの場合は、人からどう見られているかというよりも、だんだんと自分自身を満たすための目的にシフトはしてきました。それでも、見た目はキレイでいた方が絶対に特だとも思っています。だからヨガもするし筋トレもするし、ランニングもするし、アーユルヴェーダもするんです。
そして、美容や健康のメディアのトップにランニングしてくる記事は、”ダイエット”や”〇〇痩せ”がほとんどなのはやっぱり見た目をに気にする人が多いからなのではないでしょうか。
物語の中でトヨは、大学のリアル友達の間では「多様性が…」のようなことを口にする子が増えてきたことに違和感を感じています。そしてトヨは「かわいい方が絶対に特だから」と考えています。
どちらが正解・不正解ということではないかもしれないし、どちらが正解で、どちらかが不正解なのかもしれません。結局のところ、何も分からないのです。
けれど、時代の流れ的に「これを言ってしまったらダメ」「それまで言ってよかったことが気軽に口にすることができなくなった」というのも事実。だんだんとそれまでマジョリティーだった人たちが悪者のように扱われることも増え、マイノリティーになってきたように思えます。
本当の意味で多様性を受け入れるのであれば、今かっこいいと世間的に思われていることやマジョリティーになってきていることばかりに目を向けるのではなく、本当に色々な人が色々な意見を言えて、ジャッジをするのではなく認めあうことができたら素敵なのかなと、この作品を読んでいて思うようになりました。
『あなたの鼻がもう少し高ければ』では、世の中のたくさんの女子たちがが今の時代に抱えている悶々とした気持ちをストレートに表現している作品ではないかなと思います。
コロナ禍の悶々とした気持ちを素直に表現してくれる作品たち

入院中の女性が“きみ”に手紙を書く「青かける青」、パパ活で稼ぐ美女たちの仲間になるため21歳の女性が面接を受けに行く「あなたの鼻がもう少し高ければ」、男女の生徒がなくした手紙を深夜の学校に探しに行く「ブルーインク」など6編からなる書き下ろし小説。
感染症が蔓延する閉ざされた空間で人は何を考えるのでしょうか。
縛りが外れたとき自らの脆弱さや醜悪さを突きつけられる作品たちが、心を震わせてくれます。
そして、ナレーションを担当した岸井ゆきのさんの朗読も最高!一人で色々な世代のキャラクターをよくもまぁあんなに七変化できるなと関心。さすが女優さん!
川上未映子さんの作品が好きな人はもちろんのこと、本好きの方、今のコロナ禍に悶々とした気持ちを抱えている方の代弁にもなるかなと思います。
